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映画『魔女見習いをさがして』──かつて魔法に胸ときめかせていた人へ

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子どものころ、いつか魔法が使えるようになるんじゃないかと考えたことはないだろうか。そうじ用のほうきにまたがってみたり、呪文を唱えてみたりした人もいるだろう。きっと、何かしらの作品がきっかけで、自分にも魔法が使えたらいいのに、と思うようになったはずだ。
『魔女見習いをさがして』は、かつて魔法があると信じていた人や、大好きな作品があった人のための映画だ。おジャ魔女だけに限らず、セーラームーンでも仮面ライダーでもハリーポッターでも、好きだったものはなんでもいい。
おジャ魔女どれみがベースとなった映画ではあるが、おジャ魔女をあまり知らなくても楽しめるつくりになっている。自分はうっすらとアニメの記憶があるくらいで特にファンではなかったものの、終始ノスタルジーやら共感やらで感情を揺さぶられまくった。


あらすじ

教育実習に失敗して自信をなくし、進路を悩む大学生のソラ。大手商社に勤務していて、上司や同僚とうまくいかない帰国子女のミレ。追いかけたい夢があるのに、お金をせびるダメ彼氏と別れられないフリーターのレイカ。三人は、年齢も住んでいる場所も違っていて接点はないが、全員おジャ魔女どれみのファンだ。MAHO堂のモデルとなった洋館の前でばったり出会った彼女たちは、意気投合しておジャ魔女どれみゆかりの地を巡る旅行をすることになる。それぞれ悩みを抱える彼女たちが、旅をとおして一歩踏みだす勇気を手にいれる──。

 

感想

すごく良いガールミーツガールだった。まったく違うバッググラウンドを持った三人が、おジャ魔女どれみファンという共通点によって出会い、聖地巡礼をするロードムービーだ。
しかし、旅先でおジャ魔女のモデルとなった場所を巡るシーンが多いのかと思いきやそうではない。とにかく飲酒シーンが多いのだ。居酒屋でくだを巻きながら酒を飲む。目的地に向かう列車の中で酒を飲む。旅先に着いてからも、ご当地名物を食べながら酒を飲む。おいしいもの食べながら酒飲んでるときの顔がまー幸せそうなこと。“生きてる“って感じ。会社員のミレがいちばん酒豪であり、新幹線でソラ、レイカと缶ビールを飲む場面でミレだけロング缶という演出の細かさに笑った。

現実で誰かと旅行したときも、似たようなことがあると思う。記憶に残っているのは、目的にしていた観光地よりもむしろ、ご飯が美味しかったことや、まさかのハプニングだったりする。本作はストーリーやキャラクター設定が、絶妙に現実的なのだ。ソラ、ミレ、レイカには、どこかしら自分と重なる部分が見つかるような人間くささがある。やろうと思えば実写でもできそうだ。だが、リアリティのある物語をおジャ魔女どれみの絵で表現するからこそ、夢と現実のはざまで揺らぐ大人たちへのエンパワメントになっている。

三人は魔法は起こらないとわかりつつも、魔法玉にあることを願う。「現実に魔法はないのか?」という問いへの着地点が、現実的な視線であると同時に、おジャ魔女に影響を受けて育った三人だからこそだと感じられて良かった。


ここ1、2ヶ月のあいだに公開されたアニメーションについて思ったのが、物語において列車が重要な役割を果たしている率の高さである。
『魔女見習いをさがして』『ミッシング・リンク』は新幹線や電車で旅をするなかで人と関わって成長する話だし、『羅小黒戦記』では、シャオヘイが電車で女の子に言われた「ありがとう」が、気持ちの上での重要な転換点になった。『鬼滅の刃』にいたってはタイトルに列車と付いている。成長と列車というのは相性がいいのだろうか。もともと列車が映画映えするとはいえ、なかなかの偶然だ。