部屋の隅で映画と本

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『坊っちゃん』──勧善懲悪みの強い夏目漱石の初期作

 

坊っちゃん』は、夏目漱石による二作目の小説だ。名の知られた作品が多い彼の著作の中でも、おそらく一、ニを争う有名な作品だろう。

自分が読んだ夏目漱石の小説はこれで三冊目。『こころ』『彼岸過迄』を読んでかなり好きだと気づき、次は代表作(有名すぎてどれが代表作かという感じだが)を読んでみようと本書を手に取った。

いままで読んだ漱石作品のなかでいちばん読みやすくて笑えたが、作風がまったく違くて驚いた。本当に同じ作者か!?と思うくらい。自分にとっては他に読んだ『こころ』や『彼岸過迄』ように、登場人物に共感するタイプの作品ではなかったかな。


本書は有名な出だしの一文「親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている」が表すように、無鉄砲な主人公の坊っちゃんが東京から田舎の中学校に教師として赴任した先で、生徒や同僚とのトラブルに直面して持ち前の正義感に突きうごがされていく話だ。

文章は軽快で勢いがあり、明治期の作品とは思えないくらいすらすらと読むことができた。坊っちゃんが自分の信じる正義を貫きとおす姿がテンポ良く一人称で語られる。あまりに不器用に真っ直ぐすぎる坊っちゃんの行動は、可笑しみがあって笑える。

良くも悪くも勧善懲悪の感じが強かった。坊ちゃんが対峙することになる赤シャツと野だいこ(同じ学校の教頭と同僚の教師)は、彼の目線から見るとめちゃくちゃ嫌な奴に見える。

が、現実に照らし合わせればどちらも極悪人というわけではなく、世の中をうまく渡るずるい大人くらいな感じだろう。

普通ならこちらが我慢してしまうところを、坊っちゃんは真正面からずるい大人と戦おうとする。だからこそ笑えるし、赤シャツと野だいこが懲らしめられたときには、すっきりした気持ちになる。


無鉄砲で正義感の強い主人公が理屈をこねくりまわす嫌な奴を倒して終わり!!というだけの物語ではなく、最後には「勝った」のは坊っちゃんなのか?と考えさせられるのが良かった。

娯楽色の強い作品でも、しっかりと余韻を残すのはさすがといったところだ。


おわりに

後期作からいきなり初期作に飛んだから、文章のギャップがすごくて面白かった。比較的短い物語で楽しく読めるので、初めて漱石の小説を読む人にもオススメ。

夏目漱石は前期の作品では同時代への嫌悪感をユーモラスに語り、後期になるとエゴイズムと不信をかかえて葛藤する個人を描く作風になるらしい。

自分はもしかしたら後期作の方が好きなのかもしれない。次はそっちを読んでみよう。

好きな物は後に取っておくタイプの人間だからか、夏目漱石の小説が好きだと気づいてからなんだか読むのがもったいなくなってしまっている。

作品数が割とあるからすぐには読み終わらないだろうし、普通に読みたいやつは早く読んだ方が良いと分かっているんだけど・・・・。