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映画『羅小黒戦記』──コアなファンだけじゃない!家族連れで楽しめる良作

 

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ついに『羅小黒戦記』の吹替版が公開された。去年の3月ごろに字幕版を観て、衝撃を受けた映画だ。まさか100館超えの規模で上映すると思っていなかったから、嬉しいびっくり。地元の映画館で羅小黒戦記が観られるとは。

それだけ大規模で公開するってことは、コアな映画ファン・アニメファンだけではなく、親子や友人同士で観に行くライトな層もターゲットなのかなと思う。実際に本作は、全方位的にどんな人が観ても楽しめる映画であると、自信を持って勧められる。

しかし、自分が休日に観に行ったときには、圧倒的に20〜40代くらいの人が多く、小中学生はひとりも見かけなかった。ファミリーが多い地域だから、街に子どもがいないわけではない。日ごろインターネットに浸かっていると感覚が麻痺してしまうが、やっぱり一般的には知名度が低くて、なかなか観に行く選択肢に入らないのかもしれない。

だから今回は、映画・アニメファンだけでなく、誰が観ても楽しめる作品なんだ!!!ということを一人でも多くの人に分かってもらうために書きたい。せっかく大規模で公開されているから、いろんな人に観てほしい。特に、小さい子でも安心して楽しめる作品だから、親子で観に行く人が増えればいいなと思う。
(こんな末端ブログを見る人は、自分と同じくインターネットに浸かっている人だというツッコミは置いておく。)


あらすじ
猫の妖精シャオヘイは、都市開発によって森を追われ、街の片隅で隠れるように暮らしていた。ある日、妖精のフーシーとその仲間たちに出会い、人里離れた島で一緒に暮らすことになる。居場所を見つけて安心したのもつかの間、ムゲンという男がフーシーたちを捕まえにくる。逃げ遅れて取り残されたシャオヘイは、ムゲンと行動をともにせざるを得なくなってしまう。人間を恨んでいたシャオヘイだったが、人と妖精をつなぐ立場にあるというムゲンと旅をするうちに、考えが変化してゆく。

 

中国のアニメーションって聞き慣れないだろうし、いうても日本のアニメには敵わないっしょ?と思うかもしれない。しかし実際には全くそんなことはなく、むしろアニメーションの美点が凝縮されているような作品だ。アクションシーンはぐるんぐるん動いて迫力満載。そして背景の描きこみが凄まじい。自然豊かな土地とビルが立ちならぶ都市が、どちらもシャオヘイにとって重要な場所として登場するのだが、種類の違う美しさを見事に描き分けている。生き生きとした絵からは、アニメーターたちはこの作品が好きで、楽しみながら作ったんだというのが伝わってくる。

また、日本のアニメを観て育った人なら、世界観に入ってゆきやすいはずだ。なぜなら、絵柄から分かるように、海外作品によくある3Dアニメーションやカートゥーンではなく、いわゆるジャパニメーションの文法に近い手法で描かれているからだ。全体的に、どこか懐かしさを感じて親しみやすい。

だからといって、「日本のアニメっぽさ」がそのままごちゃ混ぜに詰め込まれて、オリジナリティが感じられないようなことは決してない。日本アニメへのリスペクトが感じられつつも、しっかりと昇華して彼らの表現を確立している。

特に小中学生にも観てほしいと思う理由は、物語から受け取れるメッセージ性にある。主人公のシャオヘイは、ある妖精たちと戦うことになる。しかし戦うのは、「悪い敵」だからではない。決して善と悪の二項対立では語れないのがこの作品の魅力だ。
日本語版の副題に「ぼくが選ぶ未来」とあるように、幼いシャオヘイは旅をすることでさまざまな人や妖精に出会うことになる。話をしたり自分が今までいたところとは異なる環境に身を置くことで、シャオヘイの価値観はどんどん広がってゆく。そしてシャオヘイ自身が、「自分は何をしたいのか・誰といたいのか」を選択する。

あえて鬼滅と比較するならば、鬼滅が巨悪に対して圧倒的な熱量の正義で立ち向かい、人々に光をもたらす物語だとすれば、羅小黒戦記はたくさんの人や妖精と接することで自分の正義を形づくり、進むべき道を選びとる物語だ。
どちらか一方が正しいのではなく、どちらもすごく大切なことだ。だからこそ鬼滅を観て、映画っておもしろい!となった子どもにぜひロシャオも観てほしい。

また、本作には現代につながる普遍的なテーマがいくつかある。たとえば「人間と妖精の共存」がテーマとしてあり、自分とルーツや考え方が異なる者とどうやって折り合いをつけるかということを考えるきっかけにもなるはずだ。

もしかしたら、絵がヌルヌル動いて画面の展開が早いので、一見すると「え?なんでそうなるの?」と思うところがあるかもしれない。初めて観たとき何箇所か分からないところがあった。序盤にシャオヘイに対して人間が襲いかかってくるところとか。
ただよく見ると、そういうご都合展開に感じる部分にもしっかり理由があり、たいていが論理的に説明できるように構成されている。
しかし逆に、細かいことは考えなくても楽しめるつくりになっているため、スクリーンに映される圧巻の映像を観ているだけでも本作の面白さを十分に味わえる。

 

本筋とはズレるが、字幕を追わなくていいぶん「動き」に注目することができた。改めて思ったのは、猫の状態のシャオヘイがちゃんと猫の動きであるということだ。フォルムはデフォルメされていて丸っこいのに、細かい動きが完全に猫。ちゃんと動物の動きに見えるように考え込まれていて違和感ゼロだ。猫映画としてのクオリティも高いので、ネコチャン好きにもおすすめです。