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『台湾物語: 「麗しの島」の過去・現在・未来』──台湾愛を感じる一冊

 

『台湾物語』は、近現代台湾の歴史、言語、文化、宗教など、さまざまな方面から台湾を語る一冊だ。なんとなく小説っぽさもあるタイトルだけど新書の本である。

文章が固くなくて、とてもソフトな読み心地なのが印象的だった。近代中国の文学には「雑文」というジャンルがあるという。「雑な文」という意味ではなく、叙情性をそなえた文章を指す。

本書はその雑文の形式で書かれていて、評論ともエッセイともつかない独特の語り口だ。


基本的な台湾事情について勉強不足だった自分にとって、近現代史が一番興味深かかった。

台湾は1945年まで日本の統治下にあり、敗戦によって中国に引き渡された。今では歴史として認識されているが、当時を生きている人にしてみれば青天の霹靂だった。

昨日まで日本人として日本語を話すように教育されていたのに、今日からは中国人として中国語で話すように指導される。日本統治時代には社会的地位の高い職に就いていた人が、中国語ができないという理由で左遷されてしまうこともあったようだ。

さらに世代によって身近な文化、政治、言語がまるきり違うため、家族間で意思疎通がうまくできないこともあったという。すごい激動だ。。。


中国での内戦に敗れた国民党が台湾になだれ込んできてからは、蒋介石親子による独裁が1988年まで続いた。その間は戒厳令が敷かれていた。

驚いたのは、戒厳令が敷かれているあいだ、学校では、歴史は中国の歴史、地理は中国の地理のみが教えられたということだ。

台湾の言葉、台湾の歴史、台湾の地理を子どもたちに教えられるようになったのは、1997年あたりのことだったらしい。20年ちょっと前まで、自分が住んでいるところについて教えられていなかったとは。


台湾の民主化に際しては、李登輝がキーマンになった。蒋介石親子死去後の大統領だ。それまでの独裁を謝罪をして、学生運動に背中を押されつつ民主化を推し進めた。

台湾ではこの民主化運動の成功体験が現在まで受け継がれ、いまでも運動がさかんらしい。

若い世代が政治に関心を持ち、平和的なデモに参加して意思表示する習慣があるっていうのが、自浄作用がありイケてる国になってる理由のひとつかなーと思ったりした。


本書を読むまでは、現代では台湾の人はみんな中国に呑み込まれたくないのだろうと考えていたのだけど、そう単純な話でもないらしい。統一推進派の人、現状維持の人、独立派の人とさまざまである。

統一に賛成する人の中にも、政治的立場からだったり、中国マネーに恩恵を受けているからだったりと、いろんな理由がある。考えてみたらそりゃ一筋縄ではいかないよね。

 

おわりに

著者は大学教授のかたわら中国、香港、台湾のメディアで文章を書く仕事もしているらしく、リアルな中華圏の事情にも詳しい人物のようだ。表面的な部分だけではなく、歴史や文化などをさまざまな角度から検分した上で、心から台湾を愛しているのだろうなというのが読んでいて伝わってきた。

最近ちょくちょくヨーロッパだったり色んな国の歴史の本を読んでいるのだけど、歴史って現代に繋がってるんだなーと実感する。当たり前だけどなんか不思議でもある。