部屋の隅で映画と本

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『人新世の「資本論」』──資本主義でも社会主義でもない社会を考える

 

『人新世の「資本論」』は、マルクスの文献から、現代に通用する資本主義以外の新たな選択肢を追求する本だ。マルクスといえば資本論が有名だが、資本論だけでなく新しく発見された文献も含めて語ることで、新たなマルクス像の提示を試みる本でもある。著者は経済・社会思想を専門とする大学教授の斎藤幸平。

本書では、経済活動が地球環境に大きな影響を与え、環境破壊が限界に近付いているいまこそ、経済活動を減速させ、資本主義以外のラディカルな対案が必要だと説く。

ラディカルな対案の構想には、5つの大きな柱が挙げられている。「使用価値経済への転換」「労働時間の短縮」「画一的な分業の廃止」「生産過程の民主化」「エッセンシャル・ワークの重視」だ。

現代日本で暮らしていると、資本主義が生活に組み込まれているのが当たり前すぎて、資本主義ではない社会は想像することすら難しいだろう。パッと思いつくのは中国やロシアみたいな独裁体制だが、本書ではそういう独裁体制とも違い、現状の資本主義でもない社会を考えていく。思考実験として面白い。

読み進めていくと、<コモン>の再建が必要だと繰り返し述べられる。例えば、デンマークコペンハーゲンで実際に行われている「公共の果樹」を市内に植えて誰でも食べてよいとする取り組みは、良いアイデアだなと思った。

もし本書で書かれているような社会が実現したら、自分にとって現在よりはある程度生きやすくなるのではないかなと思う。

「ある程度」なのは、本書で目指されているのは相互扶助が大切な社会であり、相互扶助を実現するためには色んなコミュニティに属す必要がありそうなので、人見知りの自分には疲れそうだなとも感じたから。笑


基本的には面白く読んだが、物足りなさを感じた部分もある。現状の資本主義の問題点や批判、マルクスの読みときにページを割く一方、では本書で書かれていることを具体的に現代社会にどう適用するか?という点が薄かったところだ。実現可能性については甘い感じがした。

バルセロナの気候非常事態宣言などいくつかの具体例は出されていたけど、それをどう日本の日常レベルに適応していくかは一人ひとりに委ねられているみたいにふわっとしていた。

資本主義の批判から入るからというのも、若干のモヤモヤの原因かもしれない。何かをサゲてからなにかをアゲる論理に身構えがち。

資本主義が民衆にもたらした恩恵は論点ではないのは承知の上で、「資本主義は過去にはこういう恩恵があったが、現在ではこういう問題点が大きくなっている。資本主義が成熟したいま、新たな社会構造が必要だ」的な論調がだったらもっとすんなり受け入れられたかもと思った。


おわりに

最後に物足りない点を並べてしまったが、資本主義以外の選択肢を考えるきっかけになるし、基本的には面白い。今の体制がベストなのか?他に選択肢があるんじゃないか?と、現状を疑ってみるのって大事だよね。