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映画『ミッシング・リンク』感想

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1週間以上前になるが、『ミッシング・リンク』と『魔女見習いをさがして』を二本立てで観てきた。図らずもアニメーションしばり。

製作された国や手法は違えど、どちらも人生につまづいて悩む大人が主な登場人物で、旅によって自分の進む道が見えて成長をする物語。しかも完成度がメチャクチャ高い。大人の(結婚やキャリアのような外面だけではなく)内面の成長譚がふつーにアニメーションで描かれる時代に生きててよかった・・・・。

映画館での公開が終わる前に書きたいので、まずはミッシング・リンクの感想から。魔女見習いのほうもそのうち書けるといいな・・・。

 
あらすじ

1800年代イギリス。探検家で英国紳士のライオネルは、未確認生物を発見して、探検家が集まる貴族クラブに入会を認められることを目標としていた。しかし、偏屈で自己中心的な性格が災いしてなかなかうまくいかない。ある日、一通の手紙が彼に届く。ビックフットの居場所を教えてくれるという差出人のもとへ向かうと、そこにはビックフット自身が待っていた。ひとりで暮らしていて寂しいので、同じ種族の仲間を探してほしいと頼まれる。仲間を探しだし、証拠をつかめば貴族クラブに証明できるともくろんだライオネルは、ビックフットとともに旅に出るのだった。

 

感想

まず、とにかく映像がすごい。本作を手掛けたスタジオ・ライカは、ストップモーション・アニメーションを製作している会社だ。ストップモーションとは、静止している人形を一コマ一コマ少しづつ動かしながら撮影する手法で、すごーく手間がかかるらしい。YOUTUBEや公式ツイッターに載せられているメイキング映像を観ると、本当に果てしない作業なのがわかる。手間だけではなく、お金もめちゃくちゃかかる。製作費に100億円がかかっているらしい。このクオリティの人形や背景を一つひとつ作っていたらそりゃかかるだろうな・・・。
ストップモーションのプロ集団が手間と金をかけただけあって、超ハイクオリティ映像だ。これ本当に人形でつくってるの!?!?を体験するためだけでも観に行く価値がある。

 

 

ストーリーは軽快かつ骨太だ。主人公のライオネルとビックフットのリンクの他に、ライオネルの元カノで亡くなった友人の妻でもあったアデリーナが加わり3人で旅をすることになる。旅をとおして、誰かひとりが成長をして他の人は成長をうながすだけの役回りという構図ではなく、三者三様に気づきを得る。

また、「解放」の物語だといえる。主人公であるライオネルは、探検家の貴族クラブに自分の功績を証明して、入会を認めてもらうためにビックフットを探していた。探検家のクラブというと、若々しく情熱にあふれているかと思いきやそうではなく、むしろ超保守的なおじいさんが牛耳っていて特権意識が膨れあがっている。進化論を否定して神が人間を創造したと主張したり、女性が参政権を獲得するための運動が加熱していた時代に、女性参政権などとんでもないと一蹴するような人たちだ。
ライオネルは、主張の面では貴族クラブの面々と相容れないところがありつつも、「英国紳士たるもの」・・・みたいな固定観念があり、クラブに入ることが名誉であり自分の格を上げると考えている。しかし、旅をするうちにリンクの優しさや柔軟さに触れたり、アデリーナに自己中心的な性格について諭される。他者との関わりをとおして、名誉にすがりつくことを客観的に見られるようになり、「男らしさ」や権威主義からの解放につながる。
そして、リンクは中盤でもうひとつ別の名前を持つようになる。ストーリーライン的には、ふたつの名前が絶対に必要なわけではなく、むしろ物語がごちゃる恐れがある。にもかかわらず、あえてその名前を持たせたのは、「男らしさ」からの解放を象徴するものだからではないだろうか。

本作は、シャーロック・ホームズインディ・ジョーンズに影響を受けていると製作者が公言していて、オマージュが散りばめられている。キャラ造形からして、ライオネルとリンクはシャーロックとワトソンぽい。
物語上の「お約束」を踏襲しつつも、ただ沿うのではなく現代的な視点をしっかりとプラスしていた。意図的に途中まで踏襲して、そうはならないよーと良い意味で観客を裏切るつくりにはテンション上がった。

あと、クライマックス付近のひと盛り上がりがだいぶ示唆に富んでいて良かった。ラスボス的な悪役と氷の橋の上で対峙して、氷の橋を叩き割ると・・・・というシーン。

 
上映館が少なくなってきているが、最近の海外アニメーション公開ラッシュの中で引けを取らないどころか、アニメーションの良さが溢れている作品だ。近くで上映していたらぜひ観てみてほしい。